ボクシングのダブル世界戦は2026年5月2日、東京ドームで行われ、世界スーパーバンタム級4団体タイトルマッチで統一王者の井上尚弥(大橋)が元世界バンタム級2団体統一チャンピオンの中谷潤人(M.T)に3―0で判定勝ちした。史上最長の世界戦連勝を28とし、戦績は33戦全勝(27KO)。
33歳の井上はダウンこそ奪えなかったが、序盤から優位に進めた。スーパーバンタム級2戦目で28歳の中谷は日本男子4人目の4階級制覇はならず、初黒星で32勝(24KO)1敗となった。
序盤は無数のフェイントで重圧をかけながら一瞬の隙を探る展開。中盤以降は積極的に仕掛け、11回に連打を浴びせた。決定打こそなかったものの主導権を握り、素早い身のこなしによる堅守も光った。
中谷は左の強打で互角に渡り合う場面もあったが、10回にアクシデントで負傷。直前までの勢いを失った。
頂上決戦にふさわしいハイレベルな攻防を制した。井上尚弥は「政権交代」も期待された中谷に貫禄の判定勝ち。偶然のバッティングで流血した中谷の左眉間を攻める非情さも見せて勝利にこだわった。最強の座を譲らず「勝ちに徹して、今夜勝つのは僕だという闘いを実行した」と納得した。
一瞬の隙が命取りになる展開を楽しむように井上尚は笑った。右打ち終わりの相手の左カウンターは織り込み済み。研ぎ澄まされた集中力で、紙一重でかわすと、中谷も思わず「やるな」とばかりに苦笑いを浮かべた。KO劇は見られなかったが、最高峰の技術の応酬に観客のどよめきは絶えなかった。
2023年7月に、転向したスーパーバンタム級で敵なしだった井上尚が、中谷というボクサーを好敵手と認めたのは24年10月だった。「(全階級を通じた最強ランキング)パウンド・フォー・パウンド(PFP)1位になりたい若者がいる。その若者が上がってくるのを待つしかない」。自身が君臨したPFP1位を狙うホープに目が向くのは当然だった。
強者との対戦だけを求め続けた井上尚。中谷も呼応し、世界バンタム級2団体王座に就くなど実績を積んで、頂点を目指した。ファンが待ち望んだビッグマッチは、陰りの見えない強さを示した「怪物」に軍配が上がった。
世紀の一戦で新たな伝説はつくれなかった。中谷は唯一無二の王者に紙一重の差で敗れた。「井上尚弥という男を倒してチャンピオンになる」との言葉を証明できず、運命の東京ドームでプロ初黒星を味わった。
トレーナーから「いつか闘う」と井上尚とのスパーリングを禁じられてきた。念願の日へ「アクションを起こし、頭を繊細にして闘う」と考えを巡らせた。
1回終了間際に放った大振りの左フックが意志の表明だった。3センチ長いリーチを生かしながら、右でけん制し「ビッグバン」と称される強打で仕留める。手数にこだわらず「モンスター」井上尚を倒すことだけに集中したようだった。それが勝利の条件だった。
しかし緊張感をまとったパンチは鼻先でかわされる。10回に左右の強打で攻め立てたが、次の回に反撃を受けるなど決定的な場面をつくれなかった。すっきりした表情で判定を受け入れ、大観衆に礼をした。
中学卒業後に単身渡米し無我夢中で「世界最強」の称号を追いかけた。「自分のストーリーをぶつける」。わずかに足りなかったのは執念か技術か。道のりを信じたリングは無情だった。それでも強き敗者に温かい拍手が送られた。