石川県珠洲市
「数千年に一度」の隆起を歩く

地震と津波で甚大な被害が出た能登半島北西の日本海側には、「数千年に一度」と言われる地殻変動の現場がある。 地震による隆起で、海底が露出した海岸線だ。風景は一変し、陸地化して機能しなくなった漁港もある。 共同通信カメラマンが1月17~21日、石川県珠洲市の隆起した海岸を歩いた。

石川県珠洲市の隆起した海岸線。住民によると、岩礁の白い部分が隆起によって現れた箇所だという=1月18日

国道249号沿いの小さな港の、乾いたコンクリートの坂道に白い小船がぽつんと留められていた。 波打ち際ははるか遠くで、その手前には地震後に突如現れたというごつごつとした白っぽい岩場が広がる。 地震前の衛星写真を見てみると、そんな岩場はなかった。船の置かれたすぐ脇に、緑青色の海が写っている。 小船の先に広がる海岸線は、元日まで海の中だったのである。それが数千年に一度の隆起で地上に顔を出し、この光景を作っている。

石川県珠洲市清水町の港。隆起により海水はなく、堤防がむき出しになっていた=1月17日

坂道を下りていくとコンクリートは途切れ、白いじゃりじゃりとした小石の海底らしい足場になる。 何かを係留していたロープが乾燥して、白い地面に投げ出されていた。 すでに海中だった位置まで来ているので、道路沿いの堤防ははるか頭上4,5メートルほどの見上げる高さだ。

隆起により露出した海底。大小ある白い岩はぼこぼこと歩きにくい=1月17日、石川県珠洲市

さらに海側へ進むと、小石の粒が大きくなり、ぼこぼことした白い岩へと変わって歩きにくくなってくる。 これまで海底を歩いたことなんてなかったが、平たんでないことを知った。 なるべく頂点が丸っこい歩きやすそうな岩を選んで飛び移るように進んで行く。

海底だった場所は日に当たって乾燥していた。陸からは数十メートル離れた、海中だった場所だ=1月17日、石川県珠洲市

時々よろけて片手をつくと、がりがりとした岩の表面が少し痛かった。 手で触れると、この白い岩が乾燥していることがよく分かる。 隆起によってすでに陸地化していて、潮の満ち引きで海に沈む場所ではないからだろう。 元々海底だった場所だが、今となっては、雨以外に濡れる要因がない。不思議だが、乾燥しているのが普通なのである。

露出した海底の岩にへばり付いた海藻=1月17日、石川県珠洲市

腰の高さほどの段差もあり、転ばないように気をつけて波打ち際を目指していく。 よく見ると乾燥した白い岩には、もじゃもじゃと海藻がこびりついていて、やはりここが元日まで海中だったことを感じさせる。 ある高さを境に上下で黒と白に分かれている岩もあった。 白いところが数千年に一度の隆起の結果らしい。

隆起により露出した海岸線。岩礁は上部分が黒っぽく、下部分が白っぽくなっていた=1月17日、石川県珠洲市

海際のあたりまでたどり着くと、ようやく岩が海水に打ち付けられて濡れている。 左右には国道に沿って同じような新しい海岸線ができているように見えた。一帯が隆起している。

地震により大規模な土砂崩れが発生した現場。行方不明者の捜索活動が続けられていた=1月17日、石川県珠洲市

来た道を振り返ったら、さっき下りてきた小船の坂道からは100メートル以上は離れていた。 ふと、再び地震が起きてここが海中になったら、と想像した。 地殻変動はまだ途中で、今度は沈降が起きるかもしれない。 国道までの道は岩場で、付近は土砂崩れ現場でもあって山も避難しにくい。 津波も来たらまずい。 不確かな地面に突然恐怖を感じて、再び白い岩の先端を飛び移るようにしてかつての海岸線へ急いで戻った。