WBCは優勝した第2回と4強入りの第3回に選手として出場し、2017年の第4回大会ではコーチとして参加。 2021年の東京五輪では監督として金メダル獲得に導いた稲葉篤紀氏は国際舞台で戦う厳しさを誰よりも知る。
ーWBCも大会を重ねるごとに、盛り上がりを感じる。
「やっぱり、参加している選手の意識が変わってきたでしょうね。 当時もヤンキースのジーターさんとか有名な選手が何人かいたけど、今はすごいじゃないですか。 そこまでの大会になったんだなという感じでしたね。(ラテン系の選手は)すごく楽しそうにやるし。 楽しそうにやる中でも、真剣に世界一をかける。野球の原点ってああだよな、と感じる」
ー選手で臨んだ大会とコーチで臨んだ第4回大会の違い。
「選手の時は自分でいろんな準備をしていたんですけど、コーチでは野手全員を対象にしないといけない。 一人一人、伝えることも違ってくる。 スタメンで出る選手と控えで途中から出る選手もいて、会話の仕方であったりとかは、気を使った。 選手と年齢が近いし、溝を作らない方がいいのか、近すぎるのは良くないのかなとか、 その距離感がすごく難しかった」
ー3月の開催の難しさ。
「選手を選ぶのも昨年の成績で、この一冬越しての選択となる。30人選べるとは言え、ものすごく難しかったと思う。 球数制限もあるし、大会のルールに従わないといけないし難しいですよ。
ー第4回大会では壮行試合で負け越した。
負けて課題が出て、いろんなことを言われる。 3月上旬で調整も簡単にできない。特に主力選手は毎年(4月の)開幕に合わせて逆算してやっているのに、 3月上旬での逆算が慣れていないというのもある。なかなか自分の調子が上がらなかったり、チームとしての機能であったり、 そういうのが難しいですよ。オリンピックはシーズン中なので試合慣れはしている。3月のWBCは一番難しい」
ー日本でのラウンドを6戦全勝で勝ち抜いて、米ロサンゼルスへ。準決勝では米国に1ー2で惜敗した。
「(菊池涼のホームランの)1点だけで打てなかった。ピッチャーはしっかり抑えることができていたが、 雨が降っていたし不運な流れだった。国際大会で、特にメジャー級の投手はそう簡単に打てない。 プレミア12やオリンピックとは(また少し違う)ね。いい投手がたくさんいるし、逆転勝ちというのがなかなか難しい」
【準決勝 米国2ー1日本】
2017年3月21日 ロサンゼルス
Team | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 | H | E |
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0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 2 | 6 | 0 |
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0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | 4 | 1 |
【米国】ロアーク、N・ジョーンズ、ミラー、〇ダイソン、メランソン、ニシェク、グレガーソン - ポージー
【日本】菅野、●千賀、平野、宮西、秋吉 - 小林、炭谷
本塁打 【日本】菊池
日本が惜敗した。1―1の八回に千賀が1死から右前打、二塁打で2、3塁とされ、 A・ジョーンズの三ゴロで勝ち越し点を許した。千賀は今大会初失点。 6回1失点と好投した先発の菅野は四回に菊池の失策から走者を背負い、先制点を与えた。 打線は6回に菊池がソロ本塁打を放ったが、それ以外は好機を生かせなかった。
ー米国など強豪国に勝つには。
「第4回大会は(東京ドームで)勝ちにつながるホームランがあったし、みんなが小さくなって、 ホームランを打つバッターもスモールベースボールをしないといけないんだ、という気持ちになるのが嫌だった。 国際大会に勝つためにはパワーも大事。(大谷)翔平みたいにスピードもパワーもある選手は別ですけど、 選手には何か一つ突出している自分の持ち味が必ずある。選手がじゃあ自分はスピードを生かそうとか、 自分はパワーを生かそうとか、そうやって考えてやってくれればいいのかなと思う。 自分の居場所をしっかりと分かってもらうために(東京五輪は)スピードアンドパワーを使いました」
ーメジャー勢のパワーに対抗できるか。
「絶対的なパワーでは勝てないので。スピードは日本の良さだと思う。 あと細かい野球。バントするところはバントして。それはなくしちゃいけないのかなと思う。 横綱野球は無理なので。いろんなものをしっかり混ぜていかないとだめ、だと感じますね」
ー今回は大谷やダルビッシュらメジャー選手も参加。
「第4回大会は当時メジャーの青木が声出しとかもやってくれたりとか、自分で率先してやってくれた。 2009年はイチロー選手がいたりとか、福留選手がいて、城島、岩村がいて、 松坂がいたりとかアメリカでやっている選手たちが先頭にたって、チームを引っ張ってくれた。 特にイチロー選手は練習でも一番前に出て、先頭に立ってやっていた。そういう選手がいると大きい。 今回はダルもいるし、翔平もいるし、選手たちもいろんなことを聞けてわくわくするだろうし。 彼らがチームをどんどん引っ張っていくと思うし、それは大きい」
ー今大会の代表は東京五輪で一緒に戦ったメンバーに加え、大谷ら現役メジャーも加わる。
「本当のドリームチームじゃないですか。僕もこういうチームを作れるんだったら、 作りたかったですし。本当のドリームチームを組めたんじゃないですか。 誰もが認める超一流選手がジャパンに入ってくれているので。面白いですよね。 でも、僕はあまり楽しみと言いたくないんですよね。絶対にやっている方は楽しみじゃないので。 その気持ちが分かるから。あまり楽しみという言葉は簡単に使いたくない」
ー日本ハム時代から良く知る栗山監督にバトンタッチ。
「栗山監督は新しい野球をどんどん作っていきたい、挑戦していきたい、っていうタイプ。 今回も(初の日系選手で)ヌートバー選手を入れたり。これからのWBCがどうなっていくのかとか、 先々まで考えている方なのですごいなと思いますよ。米国を倒すにはどういう選手が必要か、 ということをしっかりと考えられているメンバーだと思う。サッカーがW杯で盛り上がったように。 もう一度、世界一になることで野球って楽しいね、 野球をやりたいねと、そういう子どもたちを増やせると思うので世界一になってほしいと願っています」
稲葉 篤紀(いなば・あつのり)さん 愛知・中京高(現中京大中京高)から法大を経て 1995年にドラフト3位でヤクルト入りし2005年に日本ハム移籍。 日本代表で2008年北京五輪と2009年、2013年のWBC出場。通算2167安打を放ち2014年に引退。 2017年7月から日本代表監督を務め東京五輪金メダル。2021年10月に日本ハムのゼネラルマネジャー(GM)就任。50歳。愛知県出身。