2023.03.21
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝、スター揃いの米国戦前の円陣で、大谷翔平はロッカールームの選手たちを鼓舞した。
「やっぱり憧れてしまっては超えられない。僕らは超えるために、トップになるために来たので、憧れを捨てて、勝つことだけを考えていきましょう」
間違いなく今までの中でベストな瞬間
日本は14年ぶり3度目のWBC制覇。大谷は初出場でMVPに選ばれた。だが余韻に浸るのもつかの間、大谷は次を見据えていた。
世界最高峰の舞台で
大谷はすでにスターだ
2023.03.30
メジャーリーグ開幕
フィジカルは今までで一番いい。
キャリアハイを目指すことは常に思っている
2023.05.31
15
本塁打
05勝02敗
トップ選手でもWBCに出場した年は不調に陥りやすいが、大谷は無縁。5月末までに15本塁打を放つと、得意の6月を迎えた。
6月
15HR
2023.06.17
明日、151号を打てるように頑張ります
メジャー通算150号本塁打に到達して
2023.06.30
30
本塁打
06勝03敗
大谷は6月、歴代の日本人選手、エンゼルスの月間最多本塁打記録を更新。打率3割9分4厘、29打点の活躍で30本塁打にメジャーで一番乗りし、月間MVPに選ばれた。
7月も勢いは止まらない。
7月
9HR
2023.07.27
僕が終わらせる
初完封を決めた試合の八回終了後に
2023.07.31
39
本塁打
09勝05敗
二刀流の活躍を続け、7月も月間MVPを受賞。自身初、日本人初のホームラン王へ期待が高まる中、大谷は大事なシーズン終盤へ突入する。
2023.08.03
一番は疲労だと思う。
単純に
マリナーズ戦でのけいれんの理由を聞かれて
8月3日には、言い訳に聞こえそうな言葉を選ばない大谷が珍しく弱音を漏らしていた。
2023.08.23
そして23日、44号本塁打を打ち上げた直後のマウンドで悲劇は起きた。
2018年に手術を受けた右肘靱帯を再び痛め、二刀流でシーズンを全うすることができなくなったのだ。
大谷の試合出場数
126
128GAMES
(8月23日時点)
6月下旬から体は異変を訴えていた。右手中指の爪が割れたことから始まり、7月はけいれんによる途中交代が続いた。WBCから休みなく投打「二刀流」でプレーし、体を酷使してきた代償かもしれない。
2023.08.31
39
本塁打
09勝05敗
それでも8月は2年連続の「2桁勝利、2桁本塁打」を成し遂げ、ベーブ・ルースも未到の域に達した。
右肘靭帯を損傷した大谷は、指名打者として出場を続けたが、9月4日に右脇腹を痛め11試合連続で欠場すると、16日に今季終了を発表。19日には右肘の手術に踏み切った。
今季ア・リーグのホームラン王争いの推移
そして、その後レギュラーシーズン最終戦の10月1日まで、リーグトップの44本塁打を抜く選手は現れず、日本人初となるホームラン王を獲得した。
歴代日本人選手のシーズン最多本塁打数
歴代日本人選手との比較でも、大谷の本塁打数は圧倒的。ヤンキースなどで活躍した松井秀喜さんは「大谷選手が何をしても誰も驚かなくなった。それが彼の存在」と称賛する。
本塁打を量産できる秘密は、この唯一無二の打撃フォームにある。
こまのような軸回転と体の反りで打球に角度をつけ、左肘のスムーズな動きで力をボールに余すことなく伝える。体幹の並外れた筋力に加え、肩甲骨の柔らかさがある投打「二刀流」の大谷ならではの打撃フォームだ。
(筑波大・川村卓准教授への取材による)
2023年の大谷の年間打撃成績
-
打率
.304
(4位)
-
本塁打
44
(1位)
-
打点
95
(14位)
-
得点
102
(4位)
-
安打
151
(22位)
-
盗塁
20
(20位)
-
OPS
1.066
(1位)
-
WAR
6.0
(2位)
OPSは出塁率と長打率を足した指標で、9割で優秀な打者とされる。WARは選手がチームの勝利に貢献した度合いを示す指標。カッコ内はア・リーグ全体の順位。
2023.10.01
44
本塁打
10勝05敗
あくなき向上心と不屈の精神力で屈強にシーズンを戦った大谷。ホームラン王を獲得し、自身2度目のMVPへの期待も高まる中、激動のオフを迎えた。
2023.11.16
特別なことだなと思う
テレビ中継のインタビューで
米大リーグ機構は16日、専門局MLBネットワークの番組でア・リーグのMVPを発表し、投打「二刀流」で活躍し、日本勢初のホームラン王に輝いたエンゼルスの大谷が満票で選出された。大谷は21年に初めてMVPに輝いており、2年ぶり2度目となる選手最高の栄誉を手にした。
米大リーグ、ア・リーグのMVP発表の前に、犬と一緒に撮影に応じる大谷翔平=カリフォルニア州ニューポートビーチ(ゲッティ=共同)
2023.11.16
投打のバランスがすごく良かったと思うし、より高いレベルでこなせていたと思う
テレビ中継のインタビューで
2度目の満票での選出は史上初の快挙だ。大谷はシーズン終盤に右肘手術で離脱したが、投打で比類なき数字を残した。MVPの評価対象となるのはレギュラーシーズンのみ。全米野球記者協会の会員30人による投票は、プレーオフ前に実施された。
2023年の両リーグのMVP紹介
ア・リーグMVP
大谷 翔平
自身初のホームラン王獲得、MVP受賞は2度目
44本塁打
10勝
ナ・リーグMVP
アクーニャ (ブレーブス)
史上初の「40本塁打、70盗塁」をマークした
41本塁打
73盗塁
大谷の2021年と23年の主な賞レース結果
-
ア・リーグMVP
-
選手間投票による年間最優秀選手
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シルバースラッガー賞 30球団の監督やコーチが選ぶ打撃のベストナイン
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エドガー・マルティネス賞 最も活躍したDHに贈られる
-
ハンク・アーロン賞 ア・ナ両リーグで傑出した打者に贈られる
-
オールMLBチーム ア・ナ両リーグの区別なく
ファーストチーム、セカンドチームを選出する
イチロー、ホームラン王を予言していた?
不世出の打者イチローは2019年3月の引退記者会見で大谷について問われ「世界一にならなきゃいけない選手と考えている。ピッチャーとして20勝するシーズンがあって、その次の年に50本打ってMVP取ったらなんて考えられないが、翔平はそういう想像をさせる」と語っていた。
2023.09.19
自分自身一日でも早く
グラウンドに戻れるように頑張る
自身の手術についてインスタグラムで
9月19日、大谷は損傷した右肘の2度目の手術に踏み切った。自身のインスタグラムで「残り試合のチームの勝利を祈りつつ、自分自身一日でも早くグラウンドに戻れるように頑張る」とつづったものの、この時点でエンゼルスは今年のプレーオフの可能性が消滅しており、2014年以降、10月の戦いへの切符を逃し続けている。
-
今季の大谷の年俸
約39億 3000万円
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今季の大谷の総収入
約85億1500万円
(メジャー歴代最高額)
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来季契約の予想額
約730億円?
オフには全30球団と移籍先を交渉できるフリーエージェントになった。当初は5億ドル(約730億円)を超える史上最高額になるとも予想されていたが、右肘靱帯の手術が大谷の契約に影響を与えることは必至で、先行きは不透明だ。
手術は投打「二刀流」を長期的に続けることを目指した決断で、大谷の代理人ネズ・バレロ氏の声明によると、2024年は打者に専念して出場し、投手での復帰は25年になる見通しだ。
来年30歳を迎える大スターが踏み出す次の一歩を、世界がかたずをのんで見守っている。
憧れるのをやめましょう