【コメント全文・無料】羽生結弦さん、涙のツアー千秋楽「全魂込めて滑った」 4回転2種類成功、2時間半超で15曲熱演

 アイスショー「Echoes of Life」で演技する羽生結弦さん=千葉県船橋市のららアリーナ東京ベイ(ⓒEchoes of Life Official)

 フィギュアスケート男子で冬季五輪2連覇の羽生結弦さんが9日、千葉県船橋市のららアリーナ東京ベイでアイスショー「Echoes of Life」に出演した。制作総指揮を務めた単独ツアーは千秋楽を迎え、2時間半超で15曲を熱演。氷上で「全魂を込めて滑らせていただいた」とあいさつして感極まり、目を潤ませた。
 昨年12月の埼玉、今年1月の広島と合わせて全7公演を滑り切った。2018年平昌五輪のショートプログラム、ショパンの「バラード第1番」では4回転サルコーとトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)、4回転―3回転の連続トーループを完璧に決める圧巻の内容。約8300人の観客を沸かせ「これ以上ない出来で締めることができた。ちょっと放心状態」と達成感に浸った。
 
 羽生さんの公演後のコメント全文は次の通り。(取材:藤原慎也)
 

「これ以上ないなっていう出来で締めることできた」

 ―ここで「Echoes of Life」のツアーが全部終わりましたけれど、今の気持ちをお願いします。
 「とにかく頑張ったなということと、やっぱり、このICE STORYというものに関わってくださっている方々の規模が、本当に類を見ないぐらい多くの方々が関わってくださって。僕のためにどれだけの方が動いてくれているのか、ということに対しての感謝の気持ちでいっぱいです」
 ―最後の公演でしたけれども、自分で(脚本を)書いて、それで出演してというところで、この自分の中の完成度というのはどうですか。
 「もう、これ以上ないなっていう出来で締めることもできたので。ちょっと放心状態ではあるんですけど、言葉とか文字だけでは僕は表現しきれないし、このICE STORYというものはスケートだけでもやっぱり表現しきれない、唯一無二のものだと思っているので。今日の演技と演出と物語がこうやって映像で残ったり、また来てくださった、見に来てくださった方々の記憶に残ったりしてくれるのが、本当にうれしいなっていう気持ちでいっぱいです」
 ―いろんな表現のプログラムを見せていただいたんですけれども、やっぱり「バラード第1番」が素晴らしかった。ショーのリンクでちょっと狭いし、暗いしっていう中で、どういうふうに今日は「バラ1」に臨みましたか。
 「(質問した)テレ朝さんはもうずっと追っかけてたんで分かると思うんですけど、ずっと本当に最初からかなり苦戦をして、改めてそのショートプログラム。旧採点ルールの中のショートプログラムで、後半に2回ジャンプを跳ぶ。それがトリプルアクセルと4回転-3回転(の2連続トーループ)というジャンプ、というものの難しさを改めて感じました。何かフリーとはまた違う緊張感、そしてフリーとは違って(体力が)回復する余地がないのがショートプログラムの特徴で。非常にいろんなものが詰まっているからこそ、フリーよりも難しいんだなということを今回ツアーを通して改めて感じました。その難しいものを、既に『ピアノコレクション』までの前に4曲ですかね、4曲やってて、すでに『辛いなー』って思いながら出ていく難しさと。あとはやっぱり照明付きで。これは僕の希望だったんですけど、照明付き、そしてまたその会場によってリンクサイズが変わるということもあって、非常に挑戦、難しかったですが、本当、氷の職人さんも含めて皆さんが一生懸命やってくださったおかげで何とかできました」

 アイスショー「Echoes of Life」で演技する羽生結弦さん=千葉県船橋市のららアリーナ東京ベイ(ⓒEchoes of Life Official)

「未来なんて誰も分かんない。生きている今を、自分の心と自分の正義を信じて真っすぐ進んでいきたい」

 ―まだ終わったばかりなんですけど、次への構想とかってありますか。
 「(即答で)ないです。ゼロです(笑)。とにかく何かちょっと今放心している状態で、ちょっと頭がうまく回ってないかもしれないんですけど、とにかくこうやって皆さんが集まってくださるのもそうですけれども、何て特別なんだろうなっていうことをしみじみと心に染み込ませながら、今という時を過ごしています」
 ―以前、羽生さんはスケート=生きてる、っておっしゃっていたんですけど、未来へ向けてどんな生きざまを見せていきたいですか。
 「僕がこの物語を執筆して、実際ツアーを完走して、自分自身が思った、考えが深まったことの一つなんですけど『未来なんて、やっぱ誰も分かんないな』っていうことが、一番自分の心の中にこのツアーを滑りながら残ったものです。それは(2022年)北京オリンピックもそうでしたけれども、どんなに努力してもやっぱ報われないなって思うこともあるし、どんなに一日一善をして、どんなにいいことを繰り返していたとしても、不幸なことが起こってしまうのが未来だし。だからこそ、簡単にこんな生きざまとは言えないんですけど、でも、とりあえず生きている今を、真っすぐ自分の心と自分の正義を信じて真っすぐ進んでいきたいなっていう気持ちではいます」

 アイスショー「Echoes of Life」で演技する羽生結弦さん=千葉県船橋市のららアリーナ東京ベイ(ⓒEchoes of Life Official)

「最後は『みんな生きて』って言ってました」

 ―4曲目の「Mass Destruction –Reload–」でのNova(仮想空間の自分)はどういう心境だった。
 「あの曲自体が戦闘曲なんですよ。なので、何か音をまといながら、音を武器として戦っているっていうか、音で、うーん、何て言うんですかね、ペルソナ。ペルソナのゲーム的には、シャドウっていう敵がいるんですけど、自分は音を使いながら、その自分のペルソナを召喚して戦っているイメージでやっています。それを一般向けにどうやって話せばいいんだろうって思ったんですけど(笑)。何か音をまといながら、ダンスをしながら、憎悪の、そのいわゆる負の感情みたいなものに対して、喜びの感情とか、楽しいみたいな感情とかで押しつぶす、みたいな感覚でやってます。はい」
 ―今日の「ダニー・ボーイ」なんだけど。埼玉公演の時は安堵感を感じた。今日は静けさを感じた。どういう気持ちで滑ってたのかな。
 「(数秒考えて)今思い返してるんですけど、どんな気持ちだったかなって。もう何かその時はもう必死で、うーん、そうですね、とにかく全身で祈るっていうイメージでずっと滑ってました。その祈りが、何かダニー・ボーイのいわゆる原点にある、その死者への弔いっていう意味の祈りもあるし、ここに来てくださっている会場の皆さんの、希望への祈りであったりとか、僕自身の個人的な幸せへの祈りだったりとか。こうやって作ってくださっているスタッフへの祈りだったりとか、本当にゴチャっていろんなものが混ざってしまってはいるんですけど、一緒くたに全部音とともに祈るっていう気持ちで、ただひたすら祈ってました」
 ―浄化した憎悪への祈りもあったのかな。ストーリー的に言うと。
 「あのシーンって、あの世界の中で生命がだいぶ、もうほとんどなくなってしまった中で、やっとその芽吹きが与えられることに気が付き始めるっていうところで。自分の周りに命が宿っていくことへの祈りというか、その一つ一つの命がどうか育ってくれますように、みんな生きてくれるように、っていうことへの祈りがNovaとしては一番強かったです。最後は『みんな生きて』って言ってました」

 アイスショー「Echoes of Life」で演技する羽生結弦さん=千葉県船橋市のららアリーナ東京ベイ(ⓒEchoes of Life Official)

「皆さんの中にあるちょっとした孤独、みんなが気付いてくれない孤独に対し、大丈夫だよっていう気持ちで表現した」

 ―ICE STORYの第1弾から第3弾まで進んできて、やっぱり全てに共通して孤独っていうものが一つインスピレーションの源になっている。作品の中にも孤独ってものへの答えが必ず用意されている。そういう経験を重ねてきて、今その孤独っていうものが自分にとってどういうものなのか。
 「何かあんま孤独とは思ってないんですよね。ただ、戦わなきゃいけない時だったり、もちろん人間誰しもが持ってることだと思うんですけど、その全てを共有できるわけではない。その何だろう、とても悲しいことだけれども、自分の苦しみだったり、喜びだったりを全部共有できるわけじゃないじゃないですか。それってみんな孤独だなって思ってて。でも、だからこそ人間は言葉というものを使うし、文字を使うし、何かそれをNovaで表現したかったのは、その、たとえその世界で1人だったとしても、文字や記録や音とか、そういうものがある限りは1人じゃないんだっていうことをなんか表現したつもりなので。僕が孤独だとかっていうのは、そんなあんまり思ってはないんですけど、最近は。ただ、皆さんの中にあるちょっとした孤独、みんなが気付いてくれない孤独みたいなものに対して、いや、大丈夫だよっていう気持ちで表現したつもりです」

 アイスショー「Echoes of Life」で演技する羽生結弦さん=千葉県船橋市のららアリーナ東京ベイ(ⓒEchoes of Life Official)

「これからまた、どんどん変わっていけるという感触、実感がある」

 ―シーズン中の試合と同じように、公演を重ねるごとにすごく素晴らしいものが出来上がっていました。今回の7公演を経て、また何か越えられたなって思うものってどんなことですか。
 「新しいトレーニングもまた始めてみて、可動域を上げるとか、単純にその、何だろう、柔軟性が上がるとかっていうだけじゃなくて、使える体の動きとで、どれだけリカバリーを早くできるかっていうことと、あとは何だろう、自分の特長であるそのしなやかさ、美しさみたいなものへの磨き方みたいなことを(1月)の広島(公演)の直前ぐらいから練習を始めているんですね。それがやっと今回まとまってくれたなっていう感覚で今います。なので、これからまたどんどん変わっていけるんだなっていう感触が、実感が今はあります」