【指揮者田中祐子さんインタビュー】音楽とスケーターの動きの相互作用で生まれる魅力…チャレンジングな曲選びにも感動 ~村上佳菜子のフィギュアスケート音楽会~

前回の「村上佳菜子のフィギュアスケート音楽会」での村上佳菜子さん(Photo:Shuga ChibaⒸKORANSHA)

 フィギュアスケートに使われる音楽の魅力に光を当てたコンサート「村上佳菜子のフィギュアスケート音楽会」が2025年3月16日に東京文化会館(東京・上野)、20日に愛知県芸術劇場(名古屋市)で開かれる。
 プロスケーターの村上佳菜子さんが司会を務め、東京公演ではスペシャルゲストに高橋大輔さん、名古屋公演には鈴木明子さんと町田樹さんが登場し、競技生活の裏話などのトークも楽しめるコンサート。曲目は、村上佳菜子さんや鈴木明子さんが演技を披露したA.ロイド=ウェバー「オペラ座の怪人」、荒川静香さんや宇野昌磨さんがオリンピックでメダルを受賞したプッチーニの歌劇「トゥーランドット」より《誰も寝てはならぬ》などを、オーケストラが多彩なラインナップで演奏する。リンクの上の心揺さぶる感動を再び味わえそうだ。
 タクトを振るのは昨年に続き、田中祐子さん。指揮者から見ると、フィギュアスケートにはどんな魅力があるのだろうか。話を聞くと、音楽がフィギュアスケートに使われる時に「音楽を引き出すようなスケーターの動きとの相互作用で生まれる魅力がある」と教えてくれた。(聞き手 前山千尋)


 ※3月20日に開催される「村上佳菜子のフィギュアスケート音楽会」(14:00開演・愛知県芸術劇場)の招待券2名様分をDeep Edge Plus有料会員2組にプレゼントします。 記事の末尾に記載されている応募方法を読んでフォームからご応募ください。締め切りは2025年3月9日です。

普段の演奏会とは違う拍手のタイミング

前回の「村上佳菜子のフィギュアスケート音楽会」でトークをする村上佳菜子さん(左)、田中祐子さん(中)、高橋大輔さん(Photo:Shuga ChibaⒸKORANSHA)

 ー2023年に続き、2回目の開催です。前回はどんなことを感じられましたか?
 (今回の会場でもある)東京文化会館での公演で、オーケストラのサウンドを聴いていただくには、大変恵まれた環境だったと思います。2日間の公演が満席に近く、大盛況だったことを覚えています。フィギュアスケーターの皆さんへの関心やフィギュアスケートそのものへの関心の高さを第一印象として実感いたしました。
 フィギュアスケートファンの皆さまが多かったと思うのですが、拍手などのリアクションそのものが普段の演奏会と良い意味で違って聞こえて新鮮だったと記憶しています。普段の演奏会ですと、音が鳴り止むといったん静寂があって、徐々に拍手が聞こえて、それから拍手が広がっていく場合が多いです。昨年の公演では、音楽をしっかり味わいながらも、拍手をしていただく、その拍手がこまやかで、(拍手の)音のスピードを速くしてくださると言いますか、まるでスケートのジャンプを見た後のような、そういった拍手の仕方になじまれているのかなと思いました。本当にポジティブな熱気に包まれ、コンサートを一つのエンターテインメントとして楽しんでくださる、そういったお客さまに支えられた、大変楽しい音楽会でした。
 そしてもう一つが、司会をしてくださった村上佳菜子さんのお話でした。自然体で言葉を紡がれていて、音楽への愛情や、音楽の成り立ち、またバレエの中の物語、ミュージカルについて大変お詳しく、感銘を受けました。さまざまな視点から楽しめる内容で、今回の公演も喜んで参加させていただきたいと思っています。
 ーフィギュアスケートはこれまでご覧になったり、関心を持たれたりしていたのでしょうか?
 私は名古屋市出身で、小学生の頃は伊藤みどりさんが大スターだったんですね。地元からは我らが村上佳菜子さんをはじめ、浅田真央さんなど、多くの方がフィギュアスケートのスターになられていますし、もちろん関心を持っていました。仲の良い友達のお母さんがスケートが上手で、教わったこともあります。冬にはバスに乗ってスケートリンクにも行っていました。
 一番注目してしまうのは、やはり楽曲ですね。クラシック音楽の楽曲が使われるという喜びと、演技のために曲がアレンジされることもあり、その点は興味深く拝見しています。例えば、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を編集した音源を使用されて競技されている様子を拝見し、「斬新だったね!」とクラシック業界の人と話したこともあります。いろいろな角度で楽しませていただいています。

次のフレーズを予感させる演技に魅力

前回の「村上佳菜子のフィギュアスケート音楽会」で指揮をする田中祐子さん(Photo:Yuki HoriguchiⒸKORANSHA)

 ー今回の演奏会では、普段の大会のアレンジとは違った形で、音楽の魅力も楽しめそうですね?
 そうですね。例えば、荒川静香さんが(2006年のトリノオリンピックで金メダルを取られた時に)滑ったプッチーニ作曲の歌劇『トゥーランドット』のアリア「誰も寝てはならぬ」は、当時はボーカルが入っていませんでしたが、今回はテノール歌手の笛田博昭さんがイタリア語で歌い上げる原曲のオペラ・アリアを楽しんでいただけます。
 ーフィギュアスケートとクラシック音楽は、結びつきが強いと思いますが、音楽を体で表現していくフィギュアスケーターの方の表現をどう見ていらっしゃいますか?
 指揮は踊りと似て非なるものでもあり、とても近いところもあると思うんですね。
 指揮というのは音を引き出すための動きです。音が出る前に指揮者は動作をしなければなりません。予備の動作によって次のテンポを示すから、相手は音を出せる。指揮というのは、この順番なんです。
 私がこれまで考えていた踊りの世界は、フィギュアスケートも含めて、音に後から(振りを)つけていくと思っていました。
 今、実はクラシックバレエをかなり本気で勉強しています。バレエの先生は、踊りも音を引き出してくるべきものだとおっしゃるんですね。バレエでもオーケストラピットがあって、バレエダンサーが「次の音をこのようにほしいのよ」という風にオーケストラに呼吸を与えるような、そういったプレパレーション(心構え)でできると良いわねと。
 録音した音で踊る場合のバレエや、フィギュアスケートでもそうですが、次の音が出てくる前に、もう次のフレーズを予感させる連動性をお持ちのスケーターさんもいらっしゃって、そのような方は自然に音楽とマッチしているように感じますね。大変奥深い。音がこうなったから、次に振りが、となると、音の後から振りがくることになる。そうではなく、しっかりと相互作用で音楽を感じていらっしゃるスケーターさんは魅力的に感じますね。

フィギュアスケートにマッチする楽曲とは…

前回の「村上佳菜子のフィギュアスケート音楽会」に出演した高橋大輔さん(Photo:Shuga ChibaⒸKORANSHA)

 ーお好きなスケーターさんの表現はありますか?
 たくさんありますが、印象に残っている一つは荒川静香さんのイナバウワーですね。あのような身体表現を、私はフィギュアスケートでは見たことがなかったですし、点数にこだわらずに取り入れられたとも伺って、芸術的な表現だと感じました。それから高橋大輔さんが(『白鳥の湖』に)ヒップホップを取り入れた姿もチャレンジングに映りました。ご自身の魅力をしっかりと発揮される勇敢な姿に、とても感動したのを覚えています。今回司会を務める村上佳菜子さんは、私は既に成人していましたが、名古屋が生んだ天才少女という印象を持っていました。まだ中学生にもなっていらっしゃらないくらいの村上さんが、音楽の中で満面の笑みと共に超絶技巧を表現されていた様子は、感動的で、みんなで応援していました。ご自身の芸術性を表現なさっている場面に遭遇したときの印象はよく覚えています。
 ーフィギュアスケートに使われるクラシック音楽の曲に共通する特徴はあるとお感じですか?
 共通点で言えば、高揚感があるところでしょうか。今回演奏を予定しているメンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲 第1楽章」は叙情的で格調高い作品だと思いますが、ほかの演奏曲は、よりドラマティックで高揚感がある曲が多いです。これまで私が見た演技では、どちらかというと古典作品は少なく、華やかなロマン派が多いように思います。
 ーこれはフィギュアスケートに合うという楽曲はありますか?
 一つは、ヴェルディのオペラ「椿姫」の「パリを離れて」という曲です。愛し合っている2人のデュエット曲です。ワルツ(三拍子)と言って良いと思います。前回のコンサートでもお話したのですが、(ペアで演技をするアイスダンスをしていた)高橋大輔さんがゲストでいらっしゃったので、そのようなお話をしました。
 もう一曲は、バルトークの「舞踏組曲」です。複雑な(リズムを伴う)変拍子が使われる作品で、フィギュアのステップとどのように調和するのか、見てみたいですね。
 ー最後に、今回の公演の見所を教えていただけますか?
 響きが素晴らしい会場です。フィギュアスケートの様子を思い浮かべながら、演奏を期待していただきたいです。また、村上さんの競技生活の裏話を交えたお話もこの演奏会ならではの見所です。そして、演奏してくださる「シアター オーケストラ トウキョウ」は、バレエを知り尽くしたオーケストラです。バレエとフィギュアスケートも密接な関係にあると思いますので、ぜひこの音楽会を楽しみにしていただきたいと思います。

「村上佳菜子のフィギュアスケート音楽会」は…

■公演日程
2025年3月16日(日)14:00開演 東京文化会館 大ホール
2025年3月20日(木・祝)14:00開演 愛知県芸術劇場 大ホール
■チケット料金
東京公演:S席12,000円~C席4,000円 (最前列シート15,000円)
愛知公演:S席9,500円~B席5,500円 (最前列シート13,000円)

※未就学児入場不可

■出演予定
司会:村上佳菜子 
指揮:田中祐子 
管弦楽:シアター オーケストラ トウキョウ
ヴァイオリン:木嶋真優 
テノール:笛田博昭
東京公演ゲスト:高橋大輔
愛知公演ゲスト:鈴木明子、町田樹

公演の詳細、チケット情報

光藍社サイト
https://www.koransha.com/orch_chamber/figure_concert/

プレゼント応募方法

 3月20日(木・祝日)に愛知県芸術劇場で開催される「村上佳菜子のフィギュアスケート音楽会」の招待券2名様分をDeep Edge Plus有料会員2組にプレゼントします。
 応募いただくには、有料会員登録(登録したメールアドレス)が必須となります。応募は1メールアドレス1口です。
 転売目的でのご応募は禁止とさせていただきます。3/20開催の「村上佳菜子のフィギュアスケート音楽会」(14:00開演・愛知県芸術劇場 大ホール)にご参加いただける方が対象です。
 抽選の対象となるのは、申し込み締め切り日:2025年3月9日にDeep Edge Plusの有料会員で、かつ応募フォームから応募された方のみです。
 抽選結果は、当選者のみにメールでチケットの引き渡し方法をご連絡いたします。当選者には登録メールアドレスに共同通信社Deep Edge Plus事務局からご連絡しますので、事前にドメインkyodonews.jpのアドレスを受け入れる設定をお願いいたします。受け取り拒否設定でメールを送信できない場合や当選通知メールに記載した期限までに連絡先等の返信がない場合は、当選権を他者に譲渡します。

 下記リンクのフォームからご応募ください。
「村上佳菜子のフィギュアスケート音楽会」
 プレゼント応募フォーム
前山 千尋

この記事を書いた人

前山 千尋 (まえやま・ちひろ)

デジタルコンテンツ部記者。2007年入社。青森、京都支局を経て、文化部で美術や建築、教育、ジェンダー問題などを担当してきた。山梨県出身。