「30、おっさんじゃんって思っていた頃とは違った30代を迎えることができた」  「これからやっと経験とか自分の感覚、技術とか脂が乗ってくる時期。まだまだやれる」   羽生結弦さん「Echoes of Life」初演後コメント全文

 アイスショー「Echoes of Life」で演技する羽生結弦さん=さいたまスーパーアリーナ

 羽生結弦さん 「Echoes of Life」の初演後、囲み取材のコメント全文 2024年12月7日 さいたまスーパーアリーナ

 (羽生さんが「よろしくお願いします!」と言いながら取材エリアに登場。約40人の報道陣による取材が始まる)
 ―お疲れさまでした。
 「ありがとうございました」
 ―公演初日、無事終えて率直な気持ちは。
 「とうとう開幕したなっていう感じが一番強いです。本当にたくさん緊張しましたし、もちろん、すごく時間をかけて、毎日毎日トレーニングも練習も積んできましたけれども、やはり本番になってみて、皆さんの前で滑ってみないと分からない、成功なのか、失敗なのか、みたいなところもあったので、正直、とうとう始まったなっていう気持ちと、まずは初日、ケガなく、ストーリーとして完結できて良かったなっていう気持ちでいます」
 ―今回の「Echoes of Life」は生きるということを一つテーマに掲げて制作された。そこに込めた思いを教えてください。
 「元々、自分が生命倫理っていうものを小さい頃から、いろいろ考えたり、または大学で履修したりしていく中で、生きるということの哲学について、すごい興味を持っていました。そこからずっと自分の中でぐるぐるとしていた思考であったりとか、理論であったりとか、そういったものをまた勉強し直して、皆さんの中にも、この世の中だからこそ、生きるということについて、皆さんなりの答えが出せるような、哲学ができるような公演にしたいと思って『Echoes』をつづりました」

アイスショー「Echoes of Life」で演技する羽生結弦さん=さいたまスーパーアリーナ

 ―改めてになりますが、お誕生日おめでとうございます。
 「ありがとうございます」
 ―たくさんのファンの皆さんからハッピーバースデー(のソング)とバナーがたくさんあった。ああいう光景の中で迎えた30歳はいかがでした。
 「30歳になるんだなっていう気持ちと(笑)。今、30歳って言われて『ああ、30歳か』って思ったんですけど、でも自分が本当に幼い頃からずっと思っていた30代っていうものと、今、現在、自分が感じているこの体の感覚や精神状態も含めると、全然想像と違っていたなって思いますし、まだまだやれるなっていう気持ちでいます。『Echoes』の中でも未来って何とか、過去って何みたいなことがありますけど、本当に未来は自分が想像しているよりも、もっともっと良くもなるし、今ということの中で最善を尽くしていくことで、自分の中では『30、おっさんじゃん』って思っていた頃とは違った30代を迎えることができたなって何となく思っています」
 ―30代の抱負をお願いできれば。
 「いや本当、自分の中ではフィギュアスケート年齢としては劣化していくんだろうなっていう漠然としたイメージがあったんですけど、例えば野球とかサッカーとかに置き換えて考えてみたら、これからやっと経験とか、自分の感覚であったり技術だったりとかが脂が乗ってくる時期だと思うので、本当に自分自身の未来に、それこそ希望を持って絶対にチャンスをつかむんだっていう気持ちを常に持ちながら練習もトレーニングも本番も臨みたいなと思います」

アイスショー「Echoes of Life」で演技する羽生結弦さん=さいたまスーパーアリーナ

 ―文字が音になるという発想が面白かった。どう思い浮かんだのか。
 「元々、自分は光景が、例えば色とかが音になっていたりとか、感情になったりとか、簡単に言うと、例えば赤っていう色に対して情熱って思う方もいらっしゃったら、それが恐怖と捉える方もいらっしゃる。そこは人それぞれの解釈なんだけれども、そういうことを、より僕は音として割と小さい頃から聞こえてきたタイプだったんですね。別に絶対音感があるとかではなくて、何となくメロディー的な感覚で聞こえてくるような感じがしていて。そういった自分の経験だったりとか、また、フィクションとして書く中で、この子にどういう能力を持たせようかなっていうことを考えた時に自分がトレーニングとしてやっている、言葉の抑揚であったりとか、意味であったりとか、そういったものを表現するっていうことを物語の中に入れ込んで、全体を哲学が音として体に入ってくる。で、その哲学が音楽になって、プログラムが出来上がるみたいなことを、いろいろ発想を飛ばして書いていった物語です」
 ―今日の物語の中にはもう思わず書き留めたくなるような言葉がたくさんあった。一つは選べないと思うんですけど、選んで思いを語っていただきたい。
 「本当にいろんな哲学書を、生命に対してだったりとか、自分が大学で履修していた教授の本であったりとか、そういったものを読み直していろいろつづっていったんですけど、そうですね…。運命っていうのが偶然の連なりっていうことを哲学書をいろいろ読みながら学んでいって。本当にすごく、すごくもろくて、何でこんな偶然がつながっていったんだろうっていうような運命が人それぞれきっとあるんだろうなって思って、それが皆さんの中でいろいろ振り返った時だったりとか、または現在進行形で運命を感じているような時に、こんなに、めったに出会えないような、こんな偶然の出来事に出会えたんだっていう喜びであったりとか、奇跡みたいなことをぜひ感じてもらいたいなって思ってつづった文章の一つです」

アイスショー「Echoes of Life」で演技する羽生結弦さん=さいたまスーパーアリーナ

 ―今回、新作の衣装もたくさんあった。アイスストーリーシリーズにとっての衣装をどう思っているのか。今回、一番思い入れの深い衣装は。
 「やっぱり(羽生さんがショーの物語で演じた主人公の)Novaの衣装ですかね。今まで映像の中と、実際に演技するっていう衣装のリンクっていうことを今までしたことがなかったので、正直、割と本当にファッションに使えるような服を氷上で着るということは結構難しかったは難しかったんですけど、でも、やっぱりNovaという主人公の衣装にはかなり思い入れが強いものがあります。また今回フィギュアをずっと専門にしてくださっている方も含めて、また新たにフィギュアを作ってこられなかった方も参加してくださって本当にいろいろ何着も何着もアレンジを繰り返して、作り上げた衣装たちもたくさんあるので、今までと、もちろん『RE PRAY』だったり『GIFT』『プロローグ』とはまた違った毛色のアイスストーリーになっていますし、そういった衣装も含めて、フィギュアっぽくないっていうか、そういった『Echoes』じゃないと見られない衣装の布感であったり、そういったものも是非感じてもらいたいなって思っています」
 ―今回、映画のような映像を多用されていた。撮影に要した時間は。また、元々、スクリーン上の演技やお芝居に挑戦したかったのか。
 「ああ、なるほど。まず、後ろの方の質問からなんですけど、1回、僕、映画に出演させていただいたことがあって、お芝居というものをさせていただいたんですけど、本当に、あ、向いていないなって思ったんですね、その時に。だから、何だろう、映画に出たいとか、そういう気持ちは全然なくて。ただ、Novaという主人公に対して演じるということに関しては何も違和感がなかったというか。やっぱり自分がつづった物語であって、自分が完全に入り込める主人公を描いているので、そこに関しては、やっぱ自分が演じないといけないなっていう感覚ではいました。撮影に要した時間なんですけど、3日間ぐらいかけてですかね。丸2日間ずっとやって、半日ぐらいやって、もう1回、半日、撮ってみたいなことと、プラス、ナレーション録りをしなきゃいけないので、ナレーション録りでもまた2日かけて撮っているので、大変でした」
 (関係者から「最後の質問です」と声がかかる)
 ―音楽について、クラシックとか民俗音楽、現代の音楽を使っていたが、一つの作品としては全てパズルがぴたっとハマって素晴らしかった。選曲と表現のこだわりを教えてください。
 「ありがとうございます。『RE PRAY』が、結構ゲーム寄りに作っていったので、新プロを作りつつも、割とクラシカルなものを結構やりたいなっていう気持ちがあったのと、また今回のテーマ的にも哲学ということを割とテーマにしていたのでピアノの旋律であったり、また気持ちが凜とするような曲たちを、割と多めに選曲はしています。その中で、例えば自分がストーリーを描く中で、ここは戦いたいところだなとか、ここは芯を持つべきところだなとか、ここは言葉をそのまま使いたいところだなとか、そういったことをいろいろ考えた中で、いろいろ選曲をこだわっていったっていう感じですかね。今回とにかく一番悩んだのは、5番目かな、5番目の曲のピアノのクラシックの連続のところから、バラード第1番っていうのが今までやったことない、1回もはけないで、30秒間ずつぐらいで、ずっとプログラムを演じ続けるみたいなことをやっているんですけど、そこは清塚信也さんと一緒にクラシックのことも勉強し、どういう意味を込めて弾きながら、また僕もジェフリー・バトルさんに振り付けを頼んでいるんですけど、ジェフとも、いろいろ『こんなイメージで滑りたい』っていうことを本当に綿密に計算しながら、作った、本当に10何分間のプログラムですね」
 「ありがとうございます、皆さん。本当にありがたいです。(去り際に)ああ、疲れた。わりとヨロヨロしているんです(笑)」
 ―また違った感じの「Danny Boy」だった。
 「確かに、でも戦争のシーンとかもあるんで、すごくDanny映えたなって思っていて。ありがとうございました。またよろしくお願いします!」

アイスショー「Echoes of Life」で観客と盛り上がる羽生結弦さん=さいたまスーパーアリーナ
大島 優迪

この記事を書いた人

大島 優迪 (おおしま・まさみち)

2014年入社。大阪でプロ野球阪神、サッカーを担当。19年末に東京運動部に異動し、東京五輪ではスケボー、BMX、3x3などを取材。現在はサッカー、卓球、フィギュアスケートを担当。神奈川県出身。