2003年に俳優の小雪さんと松本潤さん、その後も入山法子さんと志尊淳さんによってドラマ化された人気漫画 『きみはペット』。韓国でも映画化された大ヒット作の作者の小川彌生さんは、大のフィギュアスケートファンとして知られています。これまでアイスダンスを題材にした『キス&ネバークライ』、男子シングルを描いた『銀盤騎士』の2作品を世に送り出しました。そんな小川さんに、フィギュアスケートへの思いを伺いたいと、インタビューをお願いしました。

好きな選手は、往年の名選手から現役のジュニア選手まで。小川さんがフィギュアスケートという深い沼にはまった頃には、「好き」を誰かと共有できるSNSのようなツールもなく、“ぼっち”で盛り上がっていたそうです。アイスダンスを作品で描き始めたのも「好きな気持ちを誰かと分かち合いたかったのかもしれない」と話します。
話題は、スケートの滑る音をどう表現するのかといった創作の裏話から、新時代のアイスショーの魅力まで、フィギュアスケート愛がみっちり詰まったインタビューを3回にわたってお届けします。(聞き手 品川絵里、前山千尋)
『キス&ネバークライ』とは…

小川さんの最初のフィギュアスケート作品。主人公はアイスダンス選手の黒城みちる。幼い頃からフィギュアスケートの女子シングルで活躍しながら、シニア移行後にけがでアイスダンスに転向。過去にはある事件に巻き込まれたことがあった。そんなみちるがかつてのコーチの弟とペアを組んでオリンピックを目指すようになり…
2006年~2011年に月刊誌『Kiss』(講談社)で連載。全11巻。
アイスダンスのカップルの独特な関係性...恋愛ではない、男女の強い絆を描く
―「キス&ネバークライ」ではアイスダンスを題材にされました。当時日本ではそこまでメジャーではなかったアイスダンスをなぜ選んだのでしょうか。
「アイスダンス自体は元々よく見ていました。昔はオリンピックとNHK杯ぐらいしかテレビ放送がなかったので、(見るのは)年に1、2回ほどだったんですけど、すごく好きでした。1992年のアルベールビル五輪で金メダルのクリモワ、ポノマレンコ組というロシアのカップルが、『G線上のアリア』の曲でフリーダンスをやったんですけど、すごいはまってしまった。でも当時はSNSもないので、誰にもそのことを言えずに、『 (一人)ぼっち』でずっと盛り上がっていました。CDやカセットテープを聴けるミニコンポを使っていたんですけど、それにG線上のアリアを入れて、毎朝それで起きたり。今で言うファンアートみたいなイラストも書いていたんですけど、それも誰にも見せることもなく、一人でやっていました(笑)」

「1998年の長野五輪で銅メダルだったアニシナ、ペーゼラ組というフランスのカップルもすごい好きで、写真集も持っています。誰かと共有することなく好きだったので、それをみんなにも分かち合いたい気持ちがどこかにあったのかなと思います」

「男女の、恋愛ではない強い絆みたいなものにテーマを見いだして描くことが多かったんです。アイスダンスのカップルの関係性って、すごい当てはまる気がして。もちろん恋人や夫婦でやっていらっしゃる方もいるんですけど、アイスダンスのパートナーとして強い絆はあるけど、プライベートでは他の人と付き合っているっていう方もたくさんいらっしゃるので、そういう独特な関係性みたいなのにも引かれました」
「バレエ、ダンス×ものすごいスピード」 他ではない表現に引かれた

―フィギュアスケートとの最初の出会いについて。小学生の頃にスケート教室に通われていたんですか。
「ご存知なんですか(照)。ちょっと習っていたことがあります。スケート靴を持っていたんですよ。今でも持っていますけど。スケートクラスを辞めてからも滑りに行ったりはしました」
―ご両親からスケートを勧められたのですか。それとも自分で習いに行きたいと始められたんでしょうか。
「近所に冬限定のスケートリンクがあったんですよね。大勢でまず1回『お試し』みたいな行事に行きました。私、ものすごい運動神経がなくて、体育がいつもものすごく成績が悪かったんですけど、なぜかスケートだけ他の子よりもできちゃって。それで多分、親がこれならいけるんじゃないかって思ったんじゃないですかね」
―どれくらい続けられたんですか。
「2シーズンぐらいで辞めちゃったと思います。モダンバレエもやっていたんですよ。習い事をやるのが嫌でやめてしまったんです」